「営業が入力しない」は真の理由ではない
「リードや商談の記録は、何かSFAを使って管理していますか?」と問うと、「一応HubSpotは入れているのですが……」と、どこかバツの悪そうな表情で答えられる方が少なくありません。「使いこなせているとは言い難いですね・・・」と続くのがお決まりの反応です。
私は支援することが正式に決まった後、全てのお客様に対して現状把握をするために初回のキックオフミーティングを実施します。創業して数年、または立ち上げたばかりのプロダクトというケースが多いのでどういった経緯で起業したとか、どういう課題を解決したくてそのプロダクトを開発しようと思ったかなど過去の歴史についても聞いたりします。そこで確認することの一つが冒頭の顧客管理の方法です。どんな組織も攻めと守り両方が大事だからです。すでにセールスフォースやHubSpotを契約済みのケースもあれば、スプレッドシートやNotionで管理している組織も多いです。しかし共通して「胸を張って、ばっちり管理できています」と言い切る組織は稀です。殆どの組織はとりあえず導入してみたということも多く、導入しているしていないに関係なく運用が形骸化してしまっているという場面に多く出くわします。
営業活動において、顧客管理は切っても切れないテーマですし、Salesforceに代表されるSFAやCRMの存在自体は、かなり浸透していると言ってよいでしょう。しかし、その重要性が声高に叫ばれる一方で、真にその意味を理解し、使いこなせている企業は驚くほど少ないのが現実です。本コラムでは、顧客管理がいかにビジネスの成否を分けるのか、そしてなぜ多くの企業がその当たり前を実践できないのかを、私の実体験も交えながら紐解いていきたいと思います。
「顧客管理、すなわち顧客データの管理を制する者は、営業を制し、ビジネスを制する」と言っても過言ではありません。私自身がもともと名刺管理、顧客管理のツールをサラリーマン時代に長く売っていたため多少バイアスが入っていることは認めます。しかし、十数年にわたって営業の現場に立ち続け、同時に営業管理全般に関する相談を数え切れないほど受けてきましたが、自信を持って顧客管理ができていると言える会社には、ほぼ出会ったことがありません。そして、その重要性を本当に理解している人もまた、驚くほど少ないのです。
たとえば初回のキックオフで、「フィールドセールスの2名は営業力の底上げが必要ですね。まずはロープレをやりましょう」と言えば、ほぼ全ての方が「ぜひお願いします」と前のめりになります。反論されることはまずありません。一方で、「営業力強化と同じくらい、顧客データの管理も重要です」と伝えても、そこまで強い共感は返ってきません。ピンとこないといった表情の方が殆どです。営業力強化は刺さるのに、顧客情報の整備は刺さらない。繰り返しになりますが、これが実情です。
なぜ顧客管理が重要なのか。理由は大きく三つあります。
一つ目は、振り返りができることです。
商談で何を話したか、相手が何に反応したか、料金は提示済みか。こうした情報は、記憶だけに頼っていると驚くほど曖昧になります。議事録や顧客情報が残っていれば、後から正確に確認できます。しかもこれは担当者本人だけでなく、組織にとって意味があります。法人営業では、一度断られても、担当者変更や状況変化で再度検討のテーブルに乗ることが珍しくありません。そのとき、過去にどんな話がされていたのかが分かるかどうかで、再提案の質は大きく変わります。
二つ目は、傾向が見えることです。
情報が蓄積されれば、個別案件を超えて全体の傾向が見えてきます。たとえば、失注案件に共通するパターン、受注しやすい業界や役職、案件化しやすい初回商談の条件などです。こうした傾向が見えるからこそ、リストの作り方を変える、架電スクリプトを変える、初回商談の同席者を工夫する、といった改善が可能になります。逆に、情報が蓄積されていない組織では、試行錯誤そのものができません。結局、成果はエース営業の勘と経験に依存し続けます。
三つ目は、次の一手を考えられることです。
振り返りができ、傾向が見えるからこそ、「誰に」「何を」「どの順番で」進めるべきかを、感覚ではなく事実ベースで判断できます。改善とは、本来こういうことです。気合いや根性の話ではありません。
では、なぜこれほど当たり前のことが実践できないのでしょうか。
よくある答えは、「営業担当者が入力しないから」です。確かにそれはあります。現場が忙しい、入力が面倒、何を書けばよいか分からない。どれも理解できます。ですが、私は問題の本質はそこではないと思っています。
イマイチ営業管理(SFAを利用している、利用していないに関係なく)が上手くいかないケースは2つあります。
「既存事業で食べていける」
以前支援したあるお客様はBtoCの事業が祖業でまたサービスの特性から一度導入頂ければ基本的には継続利用してもらいやすいサービスでした。そのサービスをBtoBの方にも展開できないかということで私にご相談頂きました。他の部署からもエースを異動させ、予算も一定確保しているということでかなり真剣な様子でした。ただ、実は今回の相談内容であるBtoB事業については全く売り上げがたっていないわけではなく一定の固定客もついている、しかし何度とトライしているがなかなかブレイクスルーしないということでした。もう少しお話を聞いていくと見えてきたのが売上比率でした。ざっくり言ってしまえば祖業のBtoC事業が全体の売上の8割以上を占めており、BtoB事業は1割ちょっとという状況でした。そしてもう一点、BtoB事業の責任者の方がBtoC事業も兼務した状態だったのです。ピンと来た方はいらっしゃるかもしれませんが、ようはBtoB事業で売上が立たなくても会社が倒産するなんてことは起こりにくい状態だったのです。下世話な表現かもしれませんが、既存事業で食べていけてしまう状態だったのです。しかも責任者も兼務。兼務の状態を一概に否定するつもりはありませんが、どうしてもコミットメントが弱くなってしまっていました。少なくとも私にはそう見えていました。本来であればBtoB事業での日々の営業活動の履歴を社内に残し、溜まっているデータをもとに次の一手を考える。今のサービスが売れるのか売れないのかまだハッキリと判断がつかない場合、まずは事実を確認すべきです。先月は誰が何件商談して、そのうち何件受注、失注しているのか。今月の目標数値が決まればそこから逆算して週次での目標数値に振り直します。その週次の目標も達成しているのか未達なのか。そうした事実を検証する場合当然ながら日々の営業データがないと話になりません。そうした営業データが必要にある瞬間がなかったのでしょうか?管理する側がこのようなマインドですと当然メンバーも日々の行動記録を残すことはしません。
「インバウンドリードや紹介でまわってしまっている」
一般的に能動的にアプローチするアウトバウンドの営業より、受動的に問い合わせがくるようなインバウンドの営業の方が受注率は高いです。そしてそのインバウンドリードだけで一定売れていると極端な話そこまで頑張らなくても売上が作れてしまうということがあります。売れることは素晴らしいですし、それだけで一定目標の売上金額が達成出来ていればとやかく言う必要ないのかもしれません。しかし、調子が良い状態が永遠に続くことはありません。もっと言うとインバウンドリードだけで売上目標がずっと達成できることも有りえません。毎月の問い合わせ、資料ダウンロードだけで十分やっていけているという組織を私は知りません。特に短期間で圧倒的なグロースを求められるスタートアップであれば間違いなくアウトバウンドの営業が必須になってきます。従って本来はインバウンドリードである程度商談や売上が担保できている時にこそ地道なアウトバウンドの営業活動が必要になってきます(いわゆる種まきが必要なのです)同時にインバウンド営業におけるマーケティングのファネルの改良も必要でしょう。つまり、アウトバウンドかインバウンドかという二者択一ということではなく、両方のやり方を常に改良しながら成果を出し続けていくということなのです。そしてそのためにはやはり日々の営業データを見ながら次の一手を考える必要があるのですが、目先に売れている状況があるとどうしても振り返りが甘く、また次の一手を出すのが後手になってしまう傾向にあるようです。
営業管理が上手くいかない(というかやっていない)ケースを2つみましたが、共通しているのは現状に甘えて未来を見据えた動きが出来ていないということです。いきなり明日に組織の存続を問われることはないかもしれません。しかし、1年後を見据えた場合今のやり方で本当にいいのでしょうか?今の調子がこのままも続くのでしょうか?
営業管理が上手くいかない問題は、メンバー側ではなく管理する側の人間が、その重要性を真に理解していないことではないでしょうか。営業データの蓄積は、たしかに面倒です。入力ルールを整え、定着させ、見返せる状態にするまでには時間がかかる。即効性もありません。その一方で、ロープレや研修は分かりやすい。目に見えるし、やっている感もある。だから優先されやすいのでしょう。目の間のことに飛びついてしまうのでしょう。
ただ、誤解を恐れずに言えば、ロープレや研修だって、必ずしも即効性があるわけではありません。やった直後は満足感があっても、現場で再現されなければ意味がない。結局、どちらも本質は積み上げです。積み上げていく作業は地味ですしときに負担も大きかったりします。ただし、顧客データの蓄積は、その積み上げが後からじわじわ効いてきますし、ロープレや研修等のトレーニング系も同様でしょう。
営業とは、目の前の一件を取ることだけが仕事ではありません。過去の接点を資産に変え、未来の受注確率を高め続けることもまた、営業の仕事です。その土台になるのが営業データであり顧客データです。地味で、時間がかかり、即効性も薄い。だからこそ、多くの企業は後回しにする。しかし、本当に後から効いてくるのは、むしろこちらです。顧客管理を軽視する会社は、気づかぬうちに営業の再現性と資産を捨てています。営業を強くしたいなら、まず鍛えるべきは人だけではありません。データを残し、活かし、次の一手につなげる仕組みそのものなのです。