ヒアリングよりも重要なこと
「来週予定している商談なんですが、これは必ず聞いておくべしみたいなことって何かあったりしますでしょうか?」
今ご支援しているクライアントの社長さんからのご相談です。なんでも知人の方につないでもらったとある外資系企業の代表との商談が来週セットされているらしく、事前の準備も兼ねて私にslackでDMを頂きました。
実際の商談において何をヒアリングすべきか?この質問はよくご相談を頂く内容ランキングでトップ5に入るといっても過言ではありません。その背景には「営業においてヒアリングは重要」という考えです。事実ヒアリングは重要ですしそれは各方面で語られている事実でもあります。クライアントの社長さんは真面目な方ですのでそのDMの本文からしっかりと準備をしようと意気込んでいらっしゃるのも伝わってきます。しかしながら、実は私の本音としては「いや、それも重要ですがそこじゃないんだよな~」という感じでした。
自社サービス、プロダクトを売り込むにあたって重要なことは何でしょうか?商品知識でしょうか、プレゼンテーション能力でしょうか。もちろんこれらも重要ですが、それ以前に絶対に欠かせないものがあります。それが「相手との信頼関係」、ラポール構築と呼ばれるものです。では、どうしたら信頼できると思ってもらえるのでしょうか。
信頼を構築する方法は一つではありません。誠実な対応、豊富な知識、的確な提案など、さまざまなアプローチがありますしマスターするのも時間や経験が必要ということもあります。一方で信頼が構築”できない”ケースはだいたい一緒でパターンがあります。私はこれまで何千回と商談に立ち会ってきました。成功した商談、失敗した商談、さまざまなパターンを見てきた中で確信していることがあります。それは、相手との会話がズレたときに信頼関係は崩壊するということです。
もう少し正確に言うと商談の最初の段階では、信頼があるわけでもないし、信頼がないわけでもありません。フラットというか、ゼロの状態です。お客様は「とりあえず話を聞いてみよう」というニュートラルな気持ちで席についていることが殆どでしょう。そして、このゼロの状態で営業が開始され信頼が崩れる、つまり、マイナスになる瞬間があります。この瞬間こそが、営業の成否を分ける分水嶺です。
では、会話がズレるとは具体的にどういう状況でしょうか。いくつか典型的なパターンをご紹介します。
・パターン1:こちらの思いを汲まずに自分の話をしてくる お客様が抱えている課題や背景を理解しようとせず、一方的に自社の成功事例や実績を語り始めるケース。興味がそもそも湧いていない状態で聞かされる話ほど苦痛なものはありません。資料説明に続けてデモまで入っていかれるなんて時には本当にしんどいので最近私は「一旦わかりました!」と言ってしまうこともあるくらいです(その時は極力爽やかに)
・パターン2:いきなり大きな事を聞いてくる まだ会話のラリーがそこまで多くないのに「御社の売上目標はどれくらいですか?」ってケース。いや、聞いちゃ駄目ではないんです。提案するにあたってどこかではおさえておくべきではあります。が、それにしても聞くのが早いんです。まだ関係性もできていないのに・・・。
・パターン3:大げさな反応や返答をしてくる こちらは軽く触れた程度の話題に対して「それは大変ですね!」と返ってきたりすると、この人本当にわかってるのかな?って気になります。 こうした会話が発生すると、お客様は「何か違うんだよな」という感覚を抱きます。
「何か違う」、「いや、そうじゃない」こうした小さな違和感の”醸成”が信頼をマイナスに転じさせている瞬間なのです。 さらに不幸なことに、こうした会話のズレは商談の最初の段階で発生することが多いのです。つまり、商談開始から5分、10分の間に勝負は決まっているということです。 最初に会話がズレると、そこから挽回することは極めて困難です。お客様の心の中ではシャッターが降りている状態なので「早く終わってくれないかな」という思いが芽生え始めます。「会話がズレていますよ」なんて指摘はしてくれません。表面上は相槌を打ちながら、内心では時計を気にしているのです。 そして最も悲劇的なのは、営業担当者自身がこの状況に気づいていないことです。「話は聞いてくださった」とポジティブに解釈して帰社し、上司にも「課題はありそうです」と微妙な回答をし、後日「検討の結果、見送ることになりました」という連絡を受けて初めて、何かがおかしかったことに気づくのです。
では、どうすればこの悲劇を避けられるのでしょうか。繰り返しますがお客様から「会話ズレてますよ」なんて言ってくれません。答えはシンプルです。まずは相手との前提を揃えることです。私はこれを「目線合わせをする」と呼んでいます。 目線合わせとは、お客様が今どういう状況に置かれているのかを理解することから始めるということです。 そもそも当社のことについてどこまで知ってくれているのか? そもそも商談という形で時間を割いてくれた理由は何なのか? 商談の席にはついてくれたということはちょっとは興味持ってくれているということなのか? 逆に知人との関係性もあって断れなかったので渋々今日きたのか? ぶっちゃけ暇だったから来ただけなのか? こうした前提を、商談の最初の段階でしっかりと揃えることが何より重要なのです。そして、これを言うと結構な確率で言われるのが「そんなこと聞いてしまって大丈夫ですか?」、「商談冒頭で本当に時間がたまたまあったから来ただけなんて言われたらその後どう進めていいかわかりません!」というものです。私からすれば逆で、そうしたリアルな本音こそ聞くべきだし、聞かれた相手も気遣ってくれているなと思ってくださるのでむしろ雰囲気が良くなります。何千回と商談してきて一回も微妙な空気になったことないので本当です。
目線合わせができれば、お客様は「この人は自分のことを理解しようとしてくれている」と感じます。これが信頼関係構築の第一歩です。逆に言えば、目線合わせをせずにいきなり自社の話を始めてしまうと、信頼はマイナスに転じるのです。 高度な営業テクニックや洗練されたプレゼンテーションよりも、まずは相手の状況を理解しようとする姿勢。これが信頼関係の土台であり、受注への最短ルートです。急がば回れです。
冒頭でご紹介したクライアントの社長さんにも同じことをお伝えしました。これを聞けというより、まずは何で商談に時間割こうと思ってくださったのか聞いてみると良いですよと。 この目線合わせを商談の最初に丁寧に行うだけで、受注の確率はぐっと上がるはずです。なぜなら、お客様との会話がズレることなく、本当に必要な提案ができるようになるからです。ヒアリングは確かに重要ですし、絶対に聞いたほうがいいというちょっとテクニカルなこともあります。しかし、その前に「ああ、この人は自分のことを気遣ってくれている」と思ってもらう方がはるかに商談を前に進めることができます。営業は決して難しいものではありません。相手の目線に立つ。ただそれだけで、結果は変わってきます。
あなたはいきなり商談で自社のことを話し始めてませんか?