出張時の訪問件数は何件が適切なのか? 営業組織のカルチャーは件数でわかる

1年前からご支援させて頂いている企業の営業部長との会話でのことです。
「今度1泊2日の出張をすることになりまして、4件アポを入れました」
そう報告を受けました。普段はオンラインでの商談がメインですので、訪問しかも出張ということで少し驚いたのですが聞いてみると大型案件ということもあり先方も正式に契約する前に直接会っておきたいということで出張することになったとのことでした。正式に決まればクォーター目標も達成が十分見えるので是非ともクロージングしましょう!とslackで返したのですが、ちょっと引っかかる点が。
「2日間で4件のアポって少ないな」、と内心感じていました。もうちょっと回れるでしょというのが率直な感想なので、クロージング頑張りましょうという話と共に、折角遠方に赴くのであればアポ取って訪問してきましょう!とハッパをかけたのは言うまでもありません。ところで、この出張における訪問件数は何件が正解なのでしょうか?何件アポが入れば十分なのでしょうか?
結論からいえば、正解はありません。案件の性質、顧客の重要度、移動の制約によって変わるからです。しかし、もし立ち上げフェーズのスタートアップであれば、「入れられるだけ入れる」という姿勢が最も合理的だと私は思います。まだ顧客基盤がない状況では、まずは接点の数を増やし、そこで得られる学びや接触頻度を最大化することが重要だからです。
とはいえ、実際問題として「妥当な件数」はどう考えるべきでしょうか。
 
私自身の経験から一つ例を紹介しましょう。
以前勤めていた職場の先輩の話です。そもそも当時のその会社では出張自体が簡単には許されませんでした。当時は今のようなWeb会議のインフラも整っていません。「どうしても出張したい」という強い思いで役員を説得し、やっと夜行バスでの移動ならばよいという条件付きで許可が出たのです(他社に比べてもかなりケチケチな会社でした)
その際、先輩が取ったアポは一日で7件。朝8時に現地に到着し、8時30分からの一件目を皮切りに午前中に3件、午後に4件をこなし、最後の商談を終えて再び夜行バスで帰る。ハードなスケジュールではありましたが、それをやりきることが当たり前でした。
この体験をした人間にとっては「出張で7件」はごく自然な基準になります。だからこそ「2日で4件」という予定を聞くと、正直「楽勝」に見えてしまうのです。
ここで言いたいのは、武勇伝を披露したいわけではありません。「俺たちの時代は大変だった」という回顧でもありません。重要なのは、「どんな基準を“当たり前”として刷り込まれているか」で、その後の組織文化や成果が大きく変わっていくという事実です。
では、その「当たり前の基準」が存在しない組織ではどうなるでしょうか。
出張でのアポ件数に限らず、営業には「何件のリストを用意するのが妥当か」「一日に何件架電するのが妥当か」「一日の商談数はどれくらいか」といった数量的な基準が数多く存在します。
もちろん「数より質が大事」という意見もあるでしょう。それも正しいです。ですが「数か質か」という二者択一の議論ではなく、「質を担保したうえで数をこなす」のが営業組織において理想の姿です。
伸びる組織は、例外なくこの基準設定が明確であり、かつ高い水準を維持しようと努力しています。逆に、伸びない組織は基準が低いままであり、その低さに自覚すらありません。「そんなものか」と思って取り組むため、基準が上がることはなく、むしろ下がっていくケースが多いのです。
これまで私は複数の中小企業やスタートアップを支援してきました。その中で明確に見えてきた違いがあります。それは「当たり前の基準の高さ」です。
伸びる、売れる組織は例外なく「当たり前の基準」が高い。一日に架電する件数、アポの獲得件数は誰が見ても高く設定され、圧倒的な行動量でその基準を達成させ、高め続ける努力をしています。しかも、それを組織ぐるみで行うからこそ、新しく入社したメンバーも自然とその基準に巻き込まれていきます。
新しいメンバーは、最初から「これくらいやるのが普通」という環境に放り込まれます。そこで遅れまいと踏ん張る努力をする。その努力がさらに基準を引き上げていく。こうした正の循環が生まれ、やがてそれが組織文化として定着します。
逆に、基準が低い組織ではどうなるか。努力の水準も低く、競争も生まれません。今月中に申し込んでもらおうとも思っていません。月末に見込み客に対して追い込むフォローもしません。むしろ、「月末の忙しい時期営業の電話をするなんて逆に迷惑なのでは?」という最もらしい持論を展開したりもします。「やってもやらなくても大差ない」となれば、基準は上がるどころか下がっていきます。結果として、成長は停滞し、外部環境の変化に適応できずに衰退していきます。
 
冒頭のお客様の話に戻ります。
「1泊2日で4件のアポ」という予定が正しいかどうかに、普遍的な答えはありません。案件の内容や優先順位によって、4件が妥当な場合もあれば、少なすぎる場合もあるでしょう。
ただ、組織としての「当たり前の基準」がどこにあるのか。そこにこそ本質があります。もし「出張では最低でも1日5件は入れる」という基準が組織全体で共有されていれば、それが当然の行動になります。逆に、そうした基準がない組織では「2日で4件」が標準となり、それ以上を目指す発想すら生まれません。
つまり、今回のテーマは「出張で何件が正解か」ではなく、「組織における当たり前の基準をどう設計し、どう高めていくか」という話なのです。
営業において「数」も「質」もどちらも重要です。しかし、それ以上に大切なのは、組織としての「当たり前の基準」をどこに置くかです。
基準を高く設定し、その基準を守り続け、さらに高める努力をする組織は伸びます。新しく入った人も自然とその文化に巻き込まれ、次の世代に引き継がれていくからです。これが最終的に組織のカルチャーとなっていきます。
一方で、基準が低い組織は、その低さにすら気づかず、成長の機会を自ら手放してしまいます。
出張のアポ件数の話は一見小さなことに見えるかもしれません。しかし、そこには「当たり前の基準」がいかに組織の未来を決めるかという本質が隠されています。
 
メンバーそれぞれのレベルを高め合う文化が創られていますか?
今日の架電数は何件ですか?圧倒的な行動量ですか?