営業力強化の前にやるべきこと

「何度もメンバーには伝えているんですが、◯◯さんはちょっと癖のある方でして……」
支援先での定例ミーティングで、営業部長が苦笑いしながら口にした言葉です。
当社でのご支援では、必ず社長、もしくは営業責任者の方との面談を定期的に実施しています。面談では、当初計画したプランの進捗共有だけでなく、社長や部長が見えていない現場の一言や行動も拾い上げ、共有します。定量的な振り返りだけでなく、「そういえば◯◯さんって最近・・・」という定性面もコメントするなんてこともあります。
先日の面談で話題になったのは、社内で決めた新ルールの定着状況でした。そのルールとは、商談の前日に「商談前準備」として作成したメモを社内Slackに共有するというものです。
「商談は準備で決まる」。営業経験者なら一度は聞いたことがあるでしょう。少々格言めいて聞こえますが、それくらい多くの人が見聞きしているには理由がありますし、私自身の経験に照らし合わせてもその通りだと断言できます。商談、いや仕事は準備がすべてだと。
それくらい当たり前な概念にもかかわらず、すべての商談で入念に準備をしている営業担当者は多くありません。準備を習慣化している人からすると、「そんな当たり前のことをやらない人がいるの?」 と驚くかもしれませんがこれが実態です。そして、準備なしで商談に挑んでも大丈夫なの?と「当たり前のことを当たり前にやっている人」からすれば不安?になるかもしれませんが、実はそれも杞憂なのです。商談準備をせぬまま挑んでも、表面的には問題は顕在化しません。
 
  • いつも使っている汎用資料をいつもと同じように「説明」するだけ
  • デモも機能の「説明」するだけ
  • (本人はそれで商談しているつもり)
 
一応商談が成立しているふうに見えるので、この状態でも大きな問題は表面化しません。クレームもなく商談は進みますし、商談の最後で資料をくださいと言われて終了です。お客様の方から声に出して何か言い出すなんてことはほぼないでしょう(そんなお客様がいれば逆に感謝すべきです)実態は顧客の意向を汲めていない残念な商談です。「説明」であり「提案」ですらありません。さらに深刻なのは、表立って顧客が何も言わないので、当の営業担当者がその問題に気づいていないことです。
さて、今回の支援先でも、担当者ごとの受注件数や受注率に大きなバラつきがありました。調査すると、一部の担当者は事前準備をほとんどせず商談に臨んでいたことが見えてきました。そこで、営業部として次のルールを設けました。
 
  1. 商談前の準備を必ず行う
  1. 準備内容を商談前日までにSlackの営業チャンネルで共有する
 
シンプルなルールです。しかし社長や営業部長が「必ずやろう」と号令をかけても、定着しませんでした。なぜ定着しないのか。その背景にあるのが、冒頭のやりとりです。
 
  • 「何度も伝えているのに、やらない」
  • 「やると返事したのに、実行されない」
 
これは多くの営業組織で起きている現象です。
実際に担当者に理由を尋ねると、こんな答えが返ってきました。
 
  • 「商談前準備の重要性がいまいち分からない」
  • 「どこまで準備すればいいか分からなくて止まっていた」
    ルールは明文化した。朝会でも伝えた。Slackにも投稿した。 それでも、期待した行動は起きていなかったのです。改善策は一つではありませんが、ここで重要なのは、そもそも人によって前提や解釈が異なるという事実です。
    今回のケースでは「商談前準備」「Slack共有」というルールはありました。 しかし、そもそも 「商談前準備」とは何か の定義が人によってバラバラでした。
     
    • 商談先のホームページを見て情報をまとめること?
    • ヒアリング項目を考えること?
    • それを資料に落とし込むことまで含むのか?
     
    この定義が曖昧なままでは、現場では「やったつもり」「見たつもり」などという認識が広がります。
    結果、社長や営業部長がいくら「やれ」と言っても行動は変わりません。この問題は営業に限りません。 SlackやTeamsなどのチャットツール運用でもよく見られます。
     
    • メンションは必ず付けるべきか?
    • 18時を過ぎても投稿して良いのか?
    • 休日に投稿して良いのか?
     
    こうした「当たり前」が統一されていない組織は意外に多いです。例えば大手企業からスタートアップ企業に転職された方からすれば業務時間外に仕事の連絡をすることは論外!という方もいるでしょう。逆にスタートアップ企業に長く勤務している人であれば土日に関係なく仕事のメッセージをslackですることは「当たり前」かもしれません。どちらが正解という話ではなく、その組織における正解を作っておくことが大事ということです。ルールが曖昧な組織はコミュニケーションに余計なコストがかかり、一方通行になりがちです。これが 「伝わる」組織と「伝わらない」組織の実態です。
    翻って、営業力を強化したい。私は営業支援の専門のコンサルタントですので、そのようなご相談は日常的にいただきます。そうした 多くの方が、まずは研修やロープレをと思い浮かべます。もちろん、それらは有効です。しかし、その前に取り組むべきことがあります。
     
    • 組織と個人で前提条件をそろえること
    • 言葉の定義を明確にすること
     
    この共通認識があって初めて相手に伝わります。伝わるからこそ改善がなされ、最終的には成果につながりません。逆に 言葉の定義や前提条件そろわないままでは、伝わるものも伝わらず組織は永遠に空回りします。そんな中でやれ研修だ、やれロープレだ、やれナレッジの共有だと叫んでも徒労に終わってしまいます。
     
    あなたはメッセージを伝えていますか?それは伝わっていますか?                 
    まずは今使っている言葉の定義から始めませんか?