社長自らが営業の仕組み化に取り組むべき真の理由

仕組み化が必ずしも正解とはならない

「そろそろうちも仕組み化していかないとと思いまして・・・」
引き合いも増え、毎月一定数の商談をこなせてきており、直近で資金調達もして全社で新規採用に取り組んでいる中での定例ミーティングの場で聞こえてきた声です。
営業組織の立ち上げや強化の現場に立ち会う中で、こうした相談を受けることは少なくありません。私自身も営業の仕組み化を手伝いますよと言っているので当然といえば当然なのですが、組織が成長するにつれて仕組み化は必須となります。これまではインサイドセールス1名、セールス1名みたいに各領域をある意味一人で回していたフェーズから、中途でセールスを採用して2名になると従来は阿吽の呼吸で進めていた業務に対して「この場合ってどうしたらいいですか?」という質問が新規メンバーから上がり、既存メンバーからすれば「従来は特にルールを決めずにやってきたのでこれを機に整理します」という機会が一気に増えます。売上も増え、顧客数も増加し、それに伴い社内のメンバーも増えていきますのでここまで仕組み化すればOKといったお話ではなく、組織が成長する限りは永遠にメンテナンスをしていくのが仕組み化でもあります。しかし、だからといって、仕組み化を「正義」とし、すべてをそれに従わせようとするのはちょっと危険です。
仕組み化は経営のために必要な手段であり、すべての人材に同じように適用すべき万能薬ではありません。むしろ立ち上げ期の営業組織では、仕組み化よりも先に「売上最大化」という現実的な目的に集中する瞬間が必要だったりします。
 
営業活動の属人性を減らすために、プロセスやトークスクリプト、SFAの入力ルールなどを整える。こうした取り組みに日々を精を出しているという組織は多いでしょう。正しいです。しかし、その「型」に全員を同じように押し込めようとすると、売上を牽引しているトップセールスのパフォーマンスを下げてしまうことがあります。
特に、天才肌の営業とでも言いましょうか、すなわち、「自分でもよくわからないがなぜか売れちゃうんだよね」というタイプは、そもそも仕組み化に対して前向きでないことが多かったりします。日報を書くよりも1件でも多く訪問したい、SFAに入力する時間があれば提案書をブラッシュアップしたい。失注理由の入力を依頼しても「これ意味ある?」と思ってしまう、、、。そもそも「自分は売れている」という意識が強くありますし、中には「売れているんだから周囲からとやかく言われる筋合いはない」と反発する人もいたりします。彼らにとって、型にはめられることは自分の生産性を下げる行為であり、時には「やる気」そのものを失わせかねません。
そして、実際にパフォーマンスが落ちれば、組織全体の売上にも影響します。「全員に仕組みを徹底しようとした結果、トップが沈黙して売上が減った」では、本末転倒です。
 
では、仕組み化は不要なのか。もちろん、そんなことはありません。むしろ、立ち上げ期だからこそ、再現性のある型をつくることは重要です。ただし、その「素材」は、現場で実際に売っている人の中にあります。
つまり、「なんか売れてしまう」人の売り方を観察し、ヒアリングし、客観的な要素に変換していくことが、仕組み化の第一歩なのです。本人が無意識にやっていること、気づいていない強み、言語化できない勘所。そこにこそ、組織全体に展開すべき再現可能なエッセンスが隠れています。
ここで大切なのは、「本人に言語化させる」のではなく、「経営側が引き出す」こと。天才肌の営業に対して、「なんで売れてるの?言葉にして教えて」ではなく、「この前の商談で何を見て判断した?」「あのときの提案って、どう組み立てたの?」と、具体の中から少しずつ要素を取り出す。ここに「観察力」と「編集力」が求められるのです。
 
この仕組み化にまつわる現場でよく遭遇するシーンが、「古参メンバーが仕組み化に貢献していない、どうしたらいいか?」というものです。古参メンバーは創業者が直接声をかけたメンバーだったりします。一人目セールスでもあるので社歴もありますしここまでの成長を文字通り牽引してきたことは事実なので恩もあります。そしてその古参メンバーこそが「なんか売れてしまう」営業担当者であることは結構な割合であったりします。本来であれば組織のフェーズが変わるタイミングでその古参メンバーも進化を遂げるのが理想的な状態ですが、現実的にそのような華麗なる進化を遂げる人は少ないのが実情です。むしろ、成長フェーズにおいてはブレーキになったりもします。全く売れていないわけでもないし、リソースの問題で営業を外れてもらうのも現実的ではありません。そのような中で仕組み化に対してイマイチ前向きでもない場合に組織としてどうしたらいいのか?というご相談を頂きます。私が支援で入る場合は経営者の方だけでなく現場の社員の方とも会話するのですが、先のご相談が経営者の方からだとすると、現場のメンバーからは「あの人だけ特別扱いだ」、「社長との付き合い古いらしいし」と不満の声が聞こえてきたりもします。これを放置すると、チーム全体の士気が下がる原因になります。
ここで重要なのは、「例外を許容すること」と「その理由をきちんと説明すること」はセットだという点です。営業組織において、すべてを平等に扱うことは必ずしも正解ではありません。成果を出している人間に合わせて制度を歪める必要はないが、「なぜ彼・彼女は少し違うルールで動いているのか」をきちんと他のメンバーに説明することは、経営者の責任です。
例えば、「◯◯さんは今、実績が突出しているから、そのノウハウを仕組みに落とすまでの間は、少し自由に動いてもらう。ただし、その内容はしっかり我々がキャッチしてチームに還元していく」と伝えられるだけでも、メンバーの受け止め方は大きく変わります。
 
営業組織の中に「例外」を許すというのは、現場任せにするとカオスになります。しかし、経営者が意図を持って判断すれば、それはむしろ健全な柔軟性になります。
大事なのは、仕組み化というプロジェクト自体を「現場任せ」にしないことです。先ほどの古参メンバーを例外にするときに十分なコミュニケーションを経営者が取らない場合が長く続くと、最終的には優秀な人材が離脱する原因にもなります。
だからこそ、「誰を型にはめて、誰を自由に動かすか」「いつ、何を、どう仕組み化するか」は、すべて経営者が意思を持って決めるべき戦略です。そして、それをきちんと現場に伝えることが、健全な営業組織をつくるうえでの土台になるのです。
 
創業初期の営業組織にとって、売上最大化こそが最優先事項です。そのためには、必ずしも全員を仕組みに従わせる必要はありません。仕組み化は後からでも追いつけますが、失われた売上やモチベーションは取り戻せません。
突っ走る天才には、あえてそのまま走ってもらう。経営者はそれを観察し、抽出し、再現性あるかたちで仕組みに変える。まさに、自由と構造のバランスを取る「さじ加減」こそが、営業組織づくりの真髄なのです。そうしたバランスの見極めや、現場の調整が社内で難しい場合は、第三者の視点や外部のプロに頼るのも一つの有効な選択肢です。営業組織づくりに「絶対の正解」はありませんが、経営者として判断を下し、前に進むことこそが何より重要です。
 
あなたは仕組み化を自分ごととして取り組んでいますか?既存の社員へのコミュニケーションが足りていますか?