どんな人を採用すべきか?

経営者の方々と営業の立ち上げ支援をしていると、必ずといっていいほど出てくる質問があります。それが「今、営業職の面接を進めているのですがどんなポイントを見ればいいですか?」というものです。
日頃から経営者の方ともミーティングをしつつも、現場にも入ってリード獲得から商談セットまでの流れを仕組み化したり、フェーズアップのための施策を考えたりなんてこともやっています。私が入ることで開いていたバケツの穴を塞ぎ、アポから商談へと滑らかに進むように流れを整えていくと少しずつ地に足のついた組織になっていきます。それと同時に当然人を採用しようということにもなりますので必然てきに私の方に相談がきます。私は営業組織の立ち上げが専門であり、面接は専門ではありません。勿論、過去に多数の面接は経験していますのでこと営業人材を選考する上でのポイントは心得ているつもりです。私がご支援する組織は比較的小規模な組織が多く、スタートアップ企業も多いので人選は非常に重要です。当然ながら「いい営業人材を採りたい」「うちにもトップセールスが欲しい」と願うのは当然のことです。
ただ、先に結論を申し上げます。
営業人材の採用に絶対に成功する方法は存在しません。
どんなに時間をかけて選考しても、どれだけ立派な経歴の人を口説き落としても、「入社してからの活躍」が保証されるわけではないのです。
 
よくあるのが、前職で「売上を前年同期比140%達成しました」「上期支店内売上2位」といった実績を見て、「この人ならいけるかも」と期待するパターンです。もちろん、それらの実績は素晴らしいもので、評価には値します。しかし冷静に考えてみてください。
 
  • 前職の商材と自社の商材は同じですか?(単価は高かった?低かった?)
  • ターゲット顧客は自社のそれと近しいですか?(SMB? or エンプラ?)
  • リードはどこまで自分で作っていましたか?(用意されていた?or 自前で作っていた?)
 
これらの条件が1つでも大きく異なれば、その実績がそのまま自社に再現されるとは限りません。
営業経験があるといっても、その中身はまったく違います。個人営業と法人営業ではアプローチも商談の組み立てもまるで違います。法人営業でも、年商数千万円のSMB(中小企業)と、数百億のエンタープライズでは、求められるスキルセットも営業サイクルも、全く別物です。
また、上記の条件が仮に全て同じだったとしてもやっぱり自社でも活躍が見込めるとは限りません。輝かしい実績は別にあっても良いのですが参考程度にしておくのが丁度いいでしょう。結局のところ過去に輝かしい実績があってもなくても、入社後にその人が成果を出してくれるかどうかは別問題ということになります。やや乱暴な意見になってしまいますが今何ができるか?これからやってくれそうか?やりきれる人材か?これを見る必要があります。
 
具体的に一つ見るべきポイントを上げよと言われたら、私なら真っ先に「新規開拓ができるかどうか」をあげます。特に創業期や営業組織の立ち上げフェーズで重要です。これは、既存の顧客に対して提案する御用聞き型営業ではなく、「どこに顧客がいるかもわからない状態から探し出す」力です。もっと具体的にいうと、商談の席についてくれる人を探してくるだけでなく、席についてもらうために努力するということです。実際の面接であれば、「職務経歴書にある営業経験の中ですでに顧客がいた状態で提案をしていたのかどうか」を確認することです。この経験の差は驚くほどありますし少なくとも入社後に自社で活躍してくれるかどうかを見る有効な視点となるでしょう。
これはいわゆる「0→1」のフェーズの経験の有無とも言えます。
この0→1と、プロセスを回して成果を最大化する「1→10」では、必要な能力がまるで異なります。同じ陸上競技で例えるなら、「短距離走」と「棒高跳び」くらい違う競技です。
短距離走の選手が棒高跳びも得意かと言われれば、まずそんなことはありません。営業も同じで、0→1が得意な人が必ずしも1→10を得意とは限らず、その逆もまた然りです。
だからこそ、「すごい経歴の人を採ったのに当社ではからっきしダメでした・・・」というのは、よくある話なのです。むしろそれが普通だとすら言えます。どれだけ注意深くチェックしても、やはりやってみないとわからない部分が残るのが営業の採用です。
 
この新規開拓力、「0→1」のフェーズの経験や思考の癖は入社してから日常的に求められることになるので面接やときに食事を通して解像度を極力高めるようにしましょう。ずばり申し上げますと、新規開拓をしたことがない人に新規開拓はできません。これは技術的なお話に留まらず思考、マインドの部分が非常に大きく、年齢を重ねていればその傾向は顕著です。私が支援で入る立ち上げフェーズの現場でいうと、出社すれば商談が用意されているなんてことはありません。以前口座があった企業の一覧をまとめたリストが眠っているということもありません。文字通り何もありません。流石に商材はあるでしょうがそれが唯一実在するものです。その商材を誰が買ってくれるかも分かりません。入社前の段階で何社か契約はしてくれており、業種や規模で分類してもサンプル数が少ないので傾向を見出すことも何もできません。このように何もかもが無い状態の中で自ら仮説を立てて検証をすべく自ら行動することが求められるのです。そしてそれが私がここで言っている新規開拓力なのです。
営業組織を作ることも、営業人材を採用することも、簡単ではありません。特に創業フェーズの不確実性の中では、想定通りにいかないことのほうが多いでしょう。
「誰をバスに乗せるか?」という有名な企業経営の書に出てくるフレーズがあります。経営において採用は重要であるとシンプルに理解しています。こと営業人材の採用でいうならば新規開拓ができる人を真っ先に乗せるということになります。乗せてしまった後に「降りてください」と言うのは簡単ではありません。そんなことくらいはわかっていると言われそうですが、やっぱり難しいです。「新規開拓できるか?」、この視点でぜひ面接に挑んでみてください。