バケツの穴をふさげば営業は変わる
「まず、バケツを手に取ることから始めましょう」──SFA/CRM導入支援のリアル
私が営業支援に入るクライアント企業の多くは、「飛ぶ鳥を落とす勢いの急成長企業」だけではありません。むしろ、事業は悪くないものの、どこか営業の仕組みに歪みを感じていたり、「もっとできるはずだ」と感じながらも、次の一手が見えない、そんな状態の企業がほとんどです。
ご支援が始まると、私がまず着手するのは「バケツの穴をふさぐ」作業です。
この「バケツ」とは、SFA(営業支援システム)やCRM(顧客管理システム)のことです。見込み顧客という水をせっかく集めても、バケツに穴が空いていればすぐに漏れていきます、というお話は聞いたことがあるのではないでしょうか。「前に商談した会社って、どこまで話してたんだっけ?」「あれ、この会社って前にも一度商談してなかったっけ?」──こうしたことは、穴の空いたバケツが引き起こすあるあるです。
しかも、穴をふさぐ以前に、「そもそもバケツが存在しない」ケースすらあります。営業担当者ごとにExcelが乱立し、個人の頭の中に情報があるだけ。営業チーム全体で共有すべき「入れ物」がなく、全体の営業活動がブラックボックス化しているのです。また、あったとしてもいまいち運用に乗っていない、入力がされていない、入力したりしてなかったり、、、そんな企業ばかりです。
「そのバケツ(SFA/CRM)に誰も関心がない」というのが多くの企業の実態です。
バケツはあっても、誰も水を入れようとしない。入れたとしても中身は適当。データが最新なのか古いのかも分からない。入力されていない情報も多く、精度がバラバラ。まるでゴミ箱のように、整理されることもなく、ただ「何かを投げ入れておく場所」として扱われています。
このような現場に最初に入って私が行うのは、バケツ(SFA/CRM)の重要性を説くことです。
しかし──ここに大きな壁があります。
バケツの重要性は、口で説明してすぐに伝わるものではありません。仕組みが変わる実感、データがたまっていく手応え、それをもとに改善ができるという成功体験。こうした「実感値」が伴わないと、多くの現場メンバーにとって、SFA/CRMは「入力の手間が増えただけの面倒な道具」に見えてしまうのです。
つまり、バケツの価値は、一定の時間をかけて、ようやく見えてくるものなのです。
そして、そこに辿り着くまでの「初期の忍耐」は、私にも、クライアントにも必要です。
「入力が面倒です」「そもそも全員使ってないですよ」「あとでまとめて書きます」──こうした声が出てくるのは当たり前です。けれども、そこであきらめません。SFA/CRMの運用を徹底して「あんまり意味なかったよね」となることは100%ないと断言できるからです。時間はかかりますが地道に、入力ルールを整え、わかりやすい画面設計をし、定例会で活用を促し、SFAで得られる「小さな成果」を一つずつ実感頂く。それを繰り返すことで、やがて現場の誰かが気づきます。
「これ、便利ですね」
「そういえば、最近抜け漏れ減りましたね」
「SFA見たら、前の担当が何を提案してたか分かって助かりました」
この「変化の兆し」が生まれると、そこからは早いものです。現場が動き、経営がデータをもとに判断し、営業活動全体がスムーズにまわりはじめます。
今や「データは現代の石油」と言われます。
けれども、その石油も、ただ埋まっているだけでは意味がありません。掘り当て、運び出し、精製し、利用できる形にしなければ、ただの黒い泥です。その役割を担うのが、SFA/CRMという「営業データの精製所」なのです。
そして、そのインフラの整備ができていない会社は、いくら営業力が高くても、いずれ成長の天井にぶつかります。個人の勘や根性頼りでは限界がある。仕組みで勝つ。その第一歩が「バケツをちゃんと置くこと」なのです。
誤解を恐れずに言えば、バケツを整えるだけで、営業現場はぐっと変わります。
- 担当者が変わっても、情報は引き継がれる。
- 顧客の過去履歴をもとに、適切なタイミングでアプローチできる。
- 経営は現場の状況を数値で把握し、正しく判断できる。
BtoB営業の特徴は「今期の導入がNGでも来期はまた復活する」ということです。もしかして担当者が変わるかもしれません。意思決定者の役員が交代するかもしれません。ひょっとすると導入に明るい人が来るかもしれません。こうした約束はされないものの、いつか起こりうる事態に備えて着々と情報を蓄積できる組織が確実に成果を出すのです。
これらはすべて、バケツが整って初めて実現する景色です。
派手ではないかもしれません。でも、確実に成果が出る仕事です。
SFA/CRMを導入しっぱなしにしていませんか? ちゃんと情報を入力するように徹底していますか?