断られる商談していますか?

「この案件はちょっと難しそうですね」
週次の案件ミーティングで、営業担当者からよく返ってくる言葉です。
業界やサービスの特性にもよりますが、法人営業の受注率はおおむね20%程度とされています。どんなに優秀な営業担当者でも、最終的にはそのあたりに落ち着くことが多く、私の経験からしても違和感はありません。つまり、10件商談して2件受注、8件は失注する世界です。
ですから、案件ミーティングで「難しそうです」という話が出るのは、決して珍しいことではありません。その前提を踏まえ、私はこう問いかけます。「難しいと言いますと?」返ってくるのは、だいたいこんな言葉です。「そもそもアウトバウンドの架電でのアポでして……」「一応、話は聞いてみたいということだったんですが、まだやわらかい段階です」
ネクストアクションは握れているか確認すると、「はい、一応検討いただけるということで、2週間後に電話することになっています」と返ってきます。
結論から言いましょう。このような商談は、ほぼ確実に受注に至りません。
ここで多くの人が見落とすのが、「断られていない」=「見込みがある」と錯覚してしまう構造です。
 
意外に思われるかもしれませんが、BtoBの商談のクロージング時に明確に相手から「いりません」と言われることは多くありません。日本的な商習慣や国民性もあるのでしょう。多くの人は、「御社のサービス、必要ありません」と真正面から伝えることを避けます。代わりに、「いったん社内で検討させてください」という言葉で、やんわりと興味のなさを伝えるのです。問題は、営業側がそれに気づかないことです。いや、正確に言えば、まったく気づいていないのではありません。可能性は限りなくゼロに近いと分かっていても、「断られていない限り、動き続けなければいけない」という心理に陥っているのです。
「可能性はゼロではない」——
もちろん、早々に諦めてしまっては営業として失格です。粘り強く追い続ける姿勢は、特に事業立ち上げ期や創業初期には不可欠な資質です。一件の商談でも、「しつこさ」が結果を生むことは多々あります。しかし、明らかにニーズのない相手に時間と労力を費やすのは、不毛と言わざるを得ません。
 
こうした案件は、結果としてただただ“溜まっていく”だけです。エクセルに記録されていても、更新されずに放置されていくだけ。SFAを導入していれば、ステージが変わらず、最終更新日が数ヶ月前のまま……という状態になっているでしょう。中には、設定通りにアクションを実行する担当者もいます。「その後のご検討状況はいかがでしょうか?」
返ってくるのは、「まだ社内で検討が進んでいなくて……」という定型の返答です。続けて「いつ頃ご検討いただけそうでしょうか?」と尋ねれば、「そうですね、来期に入ってからですかね」と返ってくる。やはりここでも、明確に断られることはありません。でも実質的には、もう終わっているのです。そして、最終的には連絡が取れなくなる。いわゆる、“音信不通”というやつです。これが、曖昧な商談の末路です。
 
当然ながら、こういった案件は一件や二件ではありません。営業担当者は、新規商談をこなしながらも、こうした“可能性は薄いが断られてもいない案件”を複数抱え、時間と労力を費やし続けるのです。非効率に思えるかもしれませんが、このような状況に陥っている営業組織は、決して珍しくありません。
 
ここで改めて問い直すべきなのは、「そもそも提案をしていたのか?」ということです。営業において、「提案をして断られる」ことで、はじめて“失注”と言えます。逆に言えば、断られるような商談をしなければ、失注すら成立しないのです。商品説明はした。資料も送った。機能紹介もした。デモも実施した。それでも、「導入されますか?されませんか?」という意思決定を促す提案はしていない。つまり、本当の意味で「勝負」をしていないのです。
それでも「手応えのある商談だった」と感じてしまう理由の一つが、「感想」を聞いてしまっているからです。
 
「どうでしたか?」「よさそうですか?」と尋ねれば、相手は大人です。わざわざネガティブなことは言いません。「面白そうですね」「良さそうですね」と返ってくる。しかし、それは買うという意思表示ではありません。それでも営業担当者は極めてゼロに近い可能性にかけて行動をやめませんし、上司にも見込みの案件として報告もします。そして上司は「じゃあ、次はいつ連絡するの?」と聞く。すると、「2週間後にまた電話します」となる。ここに意思決定もなければ、真の提案もありません。ただの「予定の先送り」です。提案していない。勝負もしていない。相手に買う気もない。それでも「ネクストアクションを握れ」と言われるから、とりあえず握る。もはやこれは営業というより、形骸化した儀式です。
 
繰り返しますが、「断られないこと」は良いことではありません。提案もしていない、判断ももらえていない、なのに“見込み案件”としてリストに残り続ける。これが、営業活動における最も危険な状態です。営業の本質とは、「判断をもらうこと」です。YesでもNoでも構わない。重要なのは、「決まるはずもない案件」に貴重な時間と労力を使い続けないことです。
御社の営業は、「断られていますか?」 受注か失注かだけ見ていませんか?