営業にも「農場の法則」がある。今期の数字は、前期までにどれだけ種をまいてきたかの結果でしかない

「このままいくと厳しいですね」
ある支援先の営業責任者の方と、期末の3ヶ月前に交わした会話です。
目の前の数字がめちゃくちゃ悪いというわけではありません。たしかに目標の売上には微妙に届いていませんが、そもそもストレッチした目標設定なので、メンバーには伝えていないものの、8割達成で一応クリアとしていました。
しかし、未達は未達です。
リードの件数を確認すると、一定数は流入しています。ただ、ホットリードをこれ以上増やすのは難しく、頭打ちの状態です。これまでの受注を分析しても、インバウンドリードの受注率が圧倒的に高いことは明らかです。しかし、広告予算を増やしたところで、その分リードが増える保証はありません。
ではアウトバウンドをやるかというと、現状の営業担当者にそのリソースがあるかというと怪しい状況です。ただでさえ、アポ獲得の基準を下げて、ニーズが曖昧な顧客でも商談につなげるように指示しているため、幸か不幸か商談数は少なくありません。
ただ、その多くがすぐに受注、いや案件化にすらならない商談です。そうした商談を“さばく”ことに時間が取られているため、営業担当者が自ら架電するのは現実的ではありません。
「いま動いている案件をなんとかクロージングできないか」「追加でキャンペーンを打てないか」「営業担当のスキルを底上げできないか」——議論は多岐にわたりましたが、結論として出てきたのは、打てる手が限られているという現実でした。
たしかに、営業力の底上げは大事です。しかし、営業の基礎力を鍛え、商談力を向上させるには時間がかかります。即効性はありません。私は独立前から長く営業人材の育成に携わってきました。ロープレや商談への同席を通じて、これまで1,000人以上を指導してきた経験があります。だからこそ、断言できます——営業力の底上げは、短期間では成果が出ません。
ましてや、短期間で何かを大きく変えようとすること自体が、そもそも「考えが甘すぎる」のです。
このような状況に陥る企業に共通するのは、「気づいたときには、すでに遅い」ということです。
何もしていなかったわけではありません。目の前の商談を一生懸命こなしていた。展示会にも出て、問い合わせにも対応してきた。だけど、それは「刈り取り」の活動ばかりで、「種まき」を怠っていたのです。
言い換えれば、短期の成果ばかりを追い求め、中長期のパイプライン形成という営業の本質的な営みを後回しにしてきたのです。

営業にも「農場の法則」がある

こうした状況を見るたびに思い出すのが、「農場の法則」です。
農場の法則とは、「種をまき、水をやり、日光にあて、雑草を取りながら時間をかけて育てることでしか、収穫は得られない」という、世界的なベストセラー『7つの習慣』でも語られている、自然界の摂理から導き出された法則です。
営業活動もまったく同じです。
  • 今すぐには動かないけれど、将来のニーズがありそうな顧客との関係を築く
  • メルマガなどのコンテンツを通じて顧客の認知と理解を促進する
  • ウェビナーやセミナーなどで定期的な接点をつくる
  • 定期的に価値ある情報を届け続ける
こうした「種まき」を日々コツコツと行いながら、パイプラインを形成していく。
今期の数字は、前期までにどれだけ種をまいてきたかの結果でしかないというシンプルな真理に、多くの営業現場は気づかぬふりをしています。

数字が足りない。では、今できることは何か?

とはいえ、すでに数字が足りない状況にある営業責任者としては、「農場の法則」は理屈として理解できても、それでは間に合わないという切迫感があるのも事実です。
では、今できることは何か?

1. 商談時のクロージングの強化

「クロージングの強化」と言われても、ピンとこない人もいるかもしれません。逆に「押し売りしろってことですか?」と聞かれることもあります。
誤解を恐れずに言えば、「押し売りしましょう」は間違いではありません。堂々と「買ってください」と顧客にお願いすること。それを押し売りと捉えられるかもしれませんが、本質はそこではありません。
そもそも数字が足りない状況にあるなら、責任者はメンバーの商談に同席するべきです。そして、その場で「買ってください」と頭を下げましょう。
なぜこう言うか?
それは、ほとんどの商談で、営業担当者が「買ってください」と言っていないからです。
良いサービスであれば、黙っていても顧客から申し込みが来る——そんなことは滅多にありません。
商談における重要なポイントは、相手に火をつけることです。ふんわり話を聞いている状態から、こちらがスイッチを押して、本気の検討モードに切り替えてもらうのが営業の役割です。
その役割をうまく演じきれないのであれば、単刀直入に「買ってください」と言ってみましょう。案外、口に出して断る人って少ないものです。

2. 種まきを開始する

種まきができていないと気づいたその日が、まさに吉日です。
「あと3ヶ月しかないのに、そんな悠長なことは言っていられない」と、やらない人も多い。しかし、ビジネスは長期戦です。3ヶ月後に期末を迎えても、すぐに来期がやってきます。
来期は来期で戦わなければなりませんが、結局はまた数字のプレッシャーに晒されることになります。
たとえば、「今年こそは!」と意気込んで立てた目標を、いつの間にか忘れてしまった経験はありませんか? 私も例外ではありません。
でも、その目標を思い出したときに、いつも思うのです。
「もし今日まで続けていたら、かなりの成果になっていただろうな」と。
この「三日坊主の経験」と、「もし続けていたら……」という反省。プライベートなら笑い話で済みますが、真剣勝負のビジネスでは、もう卒業しましょう。

「来期こそ」は何度目か

私が支援する現場では、「来期こそはちゃんとやろう」「中長期の視点で取り組もう」という言葉が何度も交わされます。
しかし、目先の数字に追われるうちに、その決意は風化し、また次の「来期こそ」がやってくるのです。
このサイクルを断ち切らない限り、営業組織の本質的な成長はありません。
即効性のある「打ち手」ではなく、持続可能な「営業資産」を蓄積していく考え方へのシフト。
これは単なる戦術論ではなく、経営トップや営業責任者としての、覚悟と視座の問題です。
 
「このままいくと厳しいですね」という言葉を口にした、その営業責任者も実はその瞬間に、すべてを理解していたのだと思います。問題は、来期に向けてまた同じ言葉を繰り返すのか。それとも、今から一歩ずつ、地に足をつけた「農場の営業活動」に舵を切るのか。
答えはシンプルです。今すぐ刈り取れる成果は限られています。でも、今この瞬間から種をまけば、未来に大きな収穫を得られるかもしれない。その判断と行動こそが、社長や営業担当者の真価を問われる瞬間なのです。
あなたは、種まきをできていますか? 営業メンバーは種まきをしていますか?