売れたけど、理由が不明です。——それ、危険信号です
「売れた理由が説明できない」営業現場が抱える静かなリスク
「なぜこの案件は受注できたのか?」
営業支援として企業の現場に入ると、私はまずこの問いを頻繁に投げかけます。営業実績、使用中の提案資料、直近のウェビナーの反響、さらには営業会議にも同席し、定量・定性の両面から現状を把握する中で、受注理由と顧客属性は必ず確認する項目です。
一定数の顧客を獲得できているサービスであれば、何らかの傾向があるはずです。その傾向を読み解くことは、今後の営業戦略の精度を高める上でも欠かせません。
ところが、個別の案件について「なぜこの会社が導入に至ったのか?」と営業担当者に尋ねても、明確な答えが返ってこないケースが少なくありません。
「窓口の担当者がフットワーク軽かったんですよね」
「いやもう、自分の気合いで押し切りました!」
こうした回答が返ってくることもしばしばです。もちろん、営業活動において“気合い”や“熱量”は一定の価値を持ちます。特に月末の受注やクロージングの場面では、その粘り強さがモノを言うこともあるでしょう。
しかし、「なぜ売れたのか」が曖昧なままの状態を放置してしまうのは、組織として非常に危険です。
ハイパフォーマーでも理由を説明できないことがある
驚かれるかもしれませんが、「売れた理由を説明できない」営業担当者は決して珍しくありません。むしろ、一定の成果を出している担当者であっても、売れた理由を言語化できていないケースの方が多い印象です。
「うーん、行動量は意識してたんで、それかな」
「やっぱり諦めない気持ちって大事ですよ」
こうした感覚的なコメントは、“再現性のない成果”を示しているサインでもあります。
もちろん、中には「誰がやっても売れたであろう案件」も存在します。経営トップの紹介によって、ほとんど説明もないまま導入が決まったケースや、明確なニーズが顕在化していて、顧客側が自発的に情報を取りに来てくれたケースなどです。
それも受注には違いありませんが、営業戦略を設計するうえでは、そうした“偶然に近い受注”は一旦除外して考える必要があります。むしろPMF(プロダクトマーケットフィット)前であれば、身近なネットワークからの受注はノイズになる可能性があるため、より慎重な扱いが求められます。
「言語化」なくして、営業戦略はつくれない
営業担当者自身が、自社のサービスがどのような課題をどう解決するのかを理解し、それを具体的な言葉で説明できること。これは営業としての最低限の条件です。
さらに言えば、受注に至るまでの“仮説”を持って商談に臨み、その結果を検証して次に活かすという、高速な仮説検証サイクルを回せる組織であること。これこそが営業部門の本質的な競争力につながります。
- 「この言い回しは担当者には刺さったが、意思決定者には響かなかった」
- 「この提案資料は関心を持たれたが、導入には至らなかった」
- 「このストーリーを語ったときだけ、初めて明確な反応が返ってきた」
こうした“商談の中で得られた事実”を社内に持ち帰り、共有し、時にプロダクト開発チームも巻き込んで議論する。個人の勘や偶然ではなく、組織で再現可能な勝ちパターンを構築していく営みが、営業戦略の根幹になります。
立ち上げ期の営業は「仮説検証型の新規事業」そのもの
立ち上げ期の営業は、単なる販売活動ではありません。言うなれば、それ自体が「新規事業開発」の一部です。いや、そもそも起業や事業立ち上げとは、新たな価値を市場に提供することなのですから、“営業”とはまさに「事業創造の最前線」とも言えるでしょう。
だからこそ、「とりあえず売れればいい」という短期的な視点にとどまらず、どこにピタッとはまるのか=誰に、どんな言葉で届けると価値が伝わるのかを見極めることが求められます。
狙いを定め、仮説を立て、商談を重ね、検証し、また仮説を見直す。
このループを、誰よりも早く、何度でも回す。
それが、立ち上げ期の営業に求められる最大の役割であり、将来的に再現性のある売上と強い組織を築くための、唯一の道なのです。