誰と商談していますか?──意思決定者と話さなければ、営業は進まない
「やっぱり、意思決定者と話さないと、受注は難しいですね。」
ある支援先の営業部長が、ミーティング中に漏らしたひとことです。
月初のタイミングだったこともあり、クォーターの方針を整理しようと、30分だけ話す時間をもらっていました。
ここ3ヶ月、同社は「商談数をとにかく増やす」という方針のもと、架電・広告・ウェビナーと手を打ち、行動量を最大化してきました。スタートアップの立ち上げ期にはよくある戦略です。まずは“打席に立つ回数”を増やし、どんな業界・企業規模にプロダクトが刺さるのかを探る。その姿勢は間違っていません。しかし、商談数は積み上がっているにも関わらず、肝心の受注に結びつかない。もやもやを抱えていた部長と一緒に、先月の商談実績をSFAから洗い出してみると、原因はすぐに明らかになりました。商談相手のほとんどが、現場の担当者。いわゆる「意思決定権を持たない人たち」だったのです。
商談の“数”より“相手”を見る
営業の世界では「意思決定者と話すことの重要性」は“基本のキ”です。今回の営業部長も、それを知らなかったわけではありません。ただ、目の前のKPIに引っ張られ、つい「商談件数を稼ぐこと」自体が目的化していたのです。まるで「深酒が体に悪いと分かっていながら、つい飲んでしまう」ように。驚くべきは、実際にアポイントを取得していたインサイドセールス(IS)のメンバーも、「やっぱり、担当者止まりだと決まりにくいですよね」と言いながら、今日も担当者にアポを取り続けていたことです。
The Modelの落とし穴:「見えているKPI」しか追わない構造
誰もサボっていない。むしろ、全員が真面目に仕事している。それでも、営業組織が空回りしてしまう。こうした現象の背景には、営業の分業制──いわゆるThe Model型の副作用があります。
- マーケティングはリード数を追う
- インサイドセールスはアポ数を追う
- フィールドセールスは受注数を追う
分業によって専門性が高まり、育成やスケーラビリティの面では大きなメリットがある一方、自部門のKPIだけを最適化する“部分最適”に陥りやすいのです。
マーケは「数を最大化」、ISは「アポを確保」、FSは「誰が来ようと商談を全力でこなす」。
その結果、本来はリードからクロージングまでの“質の連続性”が求められる営業プロセスが、分断されていくのです。
誰がこの分断をつなぐのか?
理想を言えば、マーケ〜CSまで全体を統括するCRO(Chief Revenue Officer)がこの連携を担うべきです。しかし、スタートアップや中小企業では、CROのような全体視点を持つ人材の採用は現実的ではありません。では、その役割を担えるのは誰か?創業者、あるいは社長自身です。少なくとも営業の型が定まるまでは、社長が陣頭指揮をとるべきです。
すべての商談に出席する必要はありません。しかし、週次の営業会議には顔を出し、商談相手の役職・属性・流入経路をチェックする。営業数値の“奥にある現実”に目を向けなければなりません。
決裁権者と会わなければ、決裁はされない
スタートアップのような組織で、年間100万円を超えるSaaSを導入するなら、社長や経営層が決裁するのが自然です。担当者が独断で決めるケースは、ほとんどありません。それにもかかわらず、現場は「誰と話しているのか」を見失いがちです。
ISは「アポが取れた」で満足し、FSは「商談が成立した」と思い込む。でも、肝心の“決裁者”がいなければ、営業は成立していないのです。
KPIの数字だけを見ていませんか?
- その商談は、誰と話しているのか?
- 本当に意思決定権のある相手に提案できているのか?
- 各部門のKPIが、会社全体の成果と連動しているのか?
営業は、数字だけを追っていても成果は出ません。分業化されたプロセスの“隙間”を埋めるのは、全体を見渡す視点と、誰に届けるべきかを明確にする指揮官の存在です。繰り返します。
商談数は足りている。でも、売れない。
その原因は、誰に会っているかにあるのです。
今日の商談は誰との商談でしたか?意思決定権のある人との商談は今月は何件ありましたか?