第1号 自発的に商談機会を創り、自社プロダクトの提案をすることが営業である

2025/3/1
「営業のこと教えてください!」、これは私が最も受ける質問です。断トツの一位と言って良いでしょう。名刺交換をしたり、自己紹介をするときに営業コンサルタントを名乗っていますから当然かもしれません。またそれくらい多くの人にとって営業というものが身近でもあり難しいものだからこそ、ほぼ条件反射的に言われるのでしょう。会話の中で帰国子女だとか海外留学経験があることを知ったときに「今度英語教えてください」とか「なんか英語で言ってみてよ」となんの気なしに言うのと似ています。
 
 独立する以前に勤務していた会社でも営業職が長く、営業の効率化、売上向上施策の提案は何千回と経験しています。営業が専門ですので安易な回答はできません。聞かれるたびに、その都度どういった商品やサービスを提供しているのか、強みは何か、またどういった顧客に対して営業をかけているのかといった感じで丁寧にヒアリングして、その都度頭をフル回転させて回答していました。
 
 しかし、今はそんなことはしません。「営業のこと教えてください」と言われたら、「まずは営業しましょう」と即答します。「電話でも飛び込みでも何でもいいので、お客様のところに行ってください」と続けます。何も回答するのが面倒になったわけではありません。単純に聞いてくる人のほとんどがそもそも営業をしていないからです。
 
営業をしないというのは普段から営業に勤しんでいる人からすれば単純にサボっているだけのことなのですが、問題なのは聞いてくる本人にサボっているという自覚がほとんどないことです。そうした人たちは仕事そっちのけで遊んでいるとか、自宅でゴロゴロしているかといえばそんなことはなく、真面目にパソコンに向かって仕事をしています。
 
 今後どうやって営業していこうかと頭も悩ませています。まずはアポを取らないことには始まらないのですが、リソースも限られているので営業代行会社の検討も開始しています。プロダクトのフィードバックをもらいたいのでVCから紹介で大手企業の部長職にあたる人の面談も来週に入っています。ターゲットとなる層が集まると聞いているので7月に京都で開催される大規模なピッチイベントにも参加しようかと共同創業者と計画もしています。もちろん、営業だけが仕事ではないので資金調達や開発の方も意識を向けねばなりませんし、同時に「広報もやったほうがいいかな?」と知り合いのスタートアップの社長にメッセンジャーで聞いています。傍から見れば全くサボっていないようにも見えます。むしろマルチタスクで仕事を人一倍こなしているようにも見えます。これ、全部勘違いです。そうした仕事が意味ないと言いたいのではなく、営業はしていないということです。
 
 確かに、大手企業の要職にあたる人からの意見は貴重ですし、立ち上げたばかりで人脈が豊富ではない社長が単独でアポを取ることは至難の業です。VCでも何でも使えるものは使った方がいいです。「今度、◯◯部の人間をつなぐよ」と言われたら全力で準備して商談に挑みましょう。しかし、よく考えてみてください。その部長から依頼があった部署の担当者はそもそもどのようなテンションで商談に来るのでしょうか?「◯◯部長の頼みだから仕方がない」「お話聞くだけになってしまいますがそれでもいいですか?」「ああー、それは全然OK。是々非々で判断してもらっていいよ」というノリです。奇跡的に担当者の興味があったらそれは本当に奇跡です。過度の期待はせず、こちらからターゲットとなる層に対して営業しましょう。
 確かに、営業代行会社は一定の経験者を複数名抱えていますので、社内でジュニアメンバーを採用して育成する手間とコストを考えれば検討の余地はあります。昨今は営業代行会社の数も増えましたので採用する側の"目利き"も必要ですが、大きく事業を成長させる上では重宝する存在です。ただ、まだ事業が成長しきれていない、いわゆるPMF前のフェーズの企業だと売り方や勝ち筋が見えていないことがほとんどなので、まずは自社で売り切る、やりきることが重要です。つまりは自社で営業することです。
 確かに、有名なピッチイベントはお祭り的な感じもあって参加すると楽しいです。たくさんの人と交流できますし、それによって資金調達のきっかけにもなるということは理解しています。でも、そんな時間があるなら商談しましょう。1件でも多くの提案を積みましょう。
 
 重要なのは、自発的に商談を創り、相手の課題解決につながる提案営業を大量に実施することです。沢山断られますがその中で刺さる言葉が見つかりますし、提案ストーリーも磨かれます。逆に言うと、刺さる言葉と提案ストーリーが受注において全てでありそれは営業を通してしか作られません。良いサービスなら自然と売れるものだと言う方に時々出会いますが幻想です。そんなこと滅多にありません。
 
 スタートアップの創業者は自分たちにしか見えない世界があります。アップルの創業者であるスティーブ・ジョブズにはスマートフォンのある世界が見えていたのでしょう。イーロン・マスクには火星に人が住む世界が見えています。そこまで壮大ではなくても、多くの人には見えない半歩先の未来が見えているからこそ、その実現のために起業するのがスタートアップの創業者です。営業とはその半歩先の未来を世に広く知ってもらう啓蒙活動です。スタートアップの営業というのは「まだ見えていないかもしれないが、こんな世界が間もなくやってきます。こちらに来ませんか?」という導く尊い行為なのですそしてその尊い行為こそ、営業であり自発的に商談を創り、相手の声に耳を傾け、提案をするということです。そのような尊い行為を自社でやらずして誰がするのでしょうか?
 
今日は何件アポが取れましたか?今月は何件商談が入っていますか?今日は営業しましたか?